【特集】萱和磨選手からの高校生へのメッセージ | 日本の学校

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アスリートからの熱いメッセージ

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萱 和磨選手 プロフィール

萱 和磨選手

体操選手 セントラルスポーツ所属
2020東京オリンピック体操男子団体 銀メダリスト
2020東京オリンピック体操男子種目別あん馬 銅メダリスト

PROFILE

1996年11月19日生まれ。千葉県船橋市出身。小学2年で体操に出合い、小学4年から本格的に練習を開始した。「あん馬」を得意種目とする。高校3年の時に全国高校体操競技大会個人総合で優勝を果たすと、大学1年にあたる2015年には日本代表としてイギリスで行われた世界選手権に出場。37年ぶりの団体総合金メダルに貢献し、個人でも種目別あん馬で銅メダルを獲得した。翌2016年のリオオリンピックでは惜しくも代表入りを逃すも、2018年、2019年の世界選手権で再び日本代表に選出される。2021年には悲願の東京オリンピック初出場を果たし、主将としてチームを牽引。団体総合で銀メダルを獲得したほか、個人でも種目別あん馬で銅メダルに輝いた。

萱 和磨選手の学生時代は・・・

体操が“負けん気の強い自分”を引き出した

萱 和磨選手写真
 幼いころの僕は大人しくて引っ込み思案で、泣き虫な子供だったそうです。見かねた両親が、行動的で自立した子に変わるきっかけになればと、 サッカー、水泳、野球、空手などさまざまなスポーツに触れる機会をくれました。しかし、どれもあまり好きにはなれず……。そんな中、小学2年の時に朝のニュース番組で、アテネオリンピックで金メダルを獲得した冨田洋之さんの鉄棒を見たんです。鉄棒や高いところが好きだったからか、はじめてスポーツに心が動かされ、自分から「体操をやってみたい」と両親にお願いしました。同時に、それまで存在すら知らなかったにも関わらず、「いつか自分もオリンピックの舞台に立ちたい」という想いも芽生えました。
 近所の体操教室に通いはじめると、すぐに体操にのめりこんでいきました。自分だけ逆立ちができないのが悔しくて家で猛練習するなど、周りの人に「性格が変わった」と言われるくらい活発的な子供に。体操をはじめるまでは夢中になれるものがなかっただけで、元々目標があれば頑張れるタイプだったのかもしれません。偶然に出合った体操が、自分の中に眠っていた負けん気を目覚めさせてくれました。
 はじめは逆立ちすらできなかったものの、1年が経つとようやく体操競技と呼べるレベルになり、千葉県大会に出場しはじめました。とはいえ僕は「天才」と注目されるような身体能力に恵まれたタイプではなかったので、この時はまだオリンピックは夢のまた夢。自分よりも強い子がたくさんいることを痛感しました。もっと強くなるために小学4年でUSJ船橋ジュニア体操クラブへ移り、地元の中学校に進学してからも外部のクラブチームで体操漬けの毎日を送りました。友達と遊ぶ時間はなかったですが、とにかく体操がうまくなりたいという一心で練習していたので「きつい」と思ったことは一度もありませんでした。
 その後、体操の強豪校である習志野高校に進学。高校2年の時に2013年国際ジュニアで優勝すると、周りから日本代表入りを期待されるようになり、一気にオリンピックが近づいた感覚がありました。とはいえ特別な才能も武器もない僕は、体操をはじめた時からずっと“練習の積み重ねだけがよい結果を招いてくれる”と思っていました。そのため代表入りにリーチがかかると、さらに自分を追い込み、時には「身体を壊すから」とコーチに止められるまで練習したことも。案の定、高校3年は腰や足の不調に悩まされる1年となりました。ここで得た「練習は量ではなく、必要なことを必要なだけやるべき」という学びは、つい練習をしすぎてしまう自分のストッパーとして今でも活きています。

37年ぶりの金メダルメンバーから一転、サポートメンバーへ

自分の弱みと向き合うことで、5年越しにオリンピックの切符を手に

萱 和磨選手写真
 高校卒業後は順天堂大学に進みました。順天堂大学の体操競技部は選手の自主性を大事にしてくれる練習スタイル。先生が生徒を引っ張るというよりは、生徒自身で練習方針を考え、足りない部分を先生にフォローしてもらいます。のびのびとした環境の中、僕は自分の得意を活かし、あん馬で日本代表に入ることを目標に練習に励んでいました。
 そして大学1年の10月、イギリスで行われた世界選手権(2015年)ではじめて日本代表に選ばれ、団体で金メダル、個人でもあん馬で銅メダルを獲ることができました。“はじめて”が功を奏し、怖いもの知らずで世界の舞台に飛び込んだ結果、自分でも納得の100点満点の演技ができました。ただ、終わった時は「うれしい」というよりも「うまくいった」という感覚でしたね。輝かしい結果とは裏腹に、勢いまかせで演技した部分があったため成功の理由を言語化できず、自分に足りない部分を見つけられずに終わってしまったのです。成長につながるヒントを得られなかった僕は、翌年のリオオリンピックで代表落ち。サポートメンバーとしてスタンドで過ごしたオリンピックは人生で一番悔しい経験で、この先よっぽどのことがない限り、これ以上落ち込むことはないと感じたほどです。また、世界選手権まではがむしゃらに練習して得意を伸ばせば結果を出せていましたが、ポテンシャルと勢いだけでは成長できなくなってきたことを痛感しました。
 リオオリンピックが終わり帰国すると、僕は空港から体育館へ直行し、練習を再開しました。東京オリンピックに向けて冷静に自分の弱点と向き合い、あん馬以外の種目も代表入りできるレベルまで技術を高めようと決めました。特に苦手なゆか、つり輪、鉄棒、跳馬を各種目1年ずつ、合計4年かけて強化していったのです。すると国際大会の種目別ゆかで優勝するなど、徐々に結果がついてきました。練習するほどに自分が強くなっている手応えを感じて、とても楽しかったです。
 そして2021年、ついに子供の時から夢見たオリンピックの舞台に立つことができました。種目別あん馬では、高難易度のブスナリという技を決めることができ、「結果はもういいや」と感じるほどの達成感を味わいました。結果は銅メダル。自分の実力としてはこれ以上ない結果だったと思います。一方の団体は4人全員がノーミスで演じきりました。しかし金メダルを目指していた僕たちにとって、銀メダルという結果には悔いが残りました。2024年のパリオリンピックこそは金メダルを獲れるよう、「ミスのない安定した演技」に加え、スローで見てもつま先がピンと伸びているような「美しい演技」を追求していきます。誰にも負けない濃密な練習で、次こそは夢を掴みます。

萱 和磨選手からのワンポイントアドバイス

自分時間をうまく使えるようになってほしい

萱 和磨選手写真
 上達の近道は、がむしゃらに練習することです。ただし、よりよいパフォーマンスをするためには練習に加えて身体や気持ちを整えることも大切です。今回は僕が普段から取り組んでいる、身体や気持ちの整え方についてお伝えします。

(1)練習前後の入念なストレッチ…体操に限らず、どのスポーツにも共通して言えるのはケガをしてはいけないということ。ケガを防ぐには練習前や練習後のストレッチが大切です。僕はいつも少なくとも30分はアップの時間に充て、その日の練習でよく使う部分を伸ばしたり、不調を感じる箇所があればそこを重点的にほぐしたりします。部活動だとそこまで時間を掛けられないかもしれないのですが、練習前後の時間を使って自主的にストレッチをすれば、ケガの確率はぐっと減るはずです。
(2)試合前のイメージトレーニング…緊張を和らげるためには、前回の試合の映像を見て、当時の演技の仕方や緊張感を疑似体験するのがおすすめです。また、試合会場がはじめて訪れる体育館の場合、過去にその体育館で行われた試合映像を見て器具の配置だけでも把握しておきましょう。環境に馴染めず普段の力が発揮できなかった、なんて事態を防ぐことができます。
(3)定期的な基礎トレーニング…身体づくりやケガ防止には基礎的なトレーニングが役立ちます。そのひとつが倒立です。倒立はどんな種目にも欠かせない基本の動きのため、体操をしている方なら難なくできてしまうでしょう。それでも、ゆかやつり輪などで30秒から1分間倒立をキープする練習を取り入れることで、身体がつくられ、1ヶ月後、1年後の自分を支えてくれます。

 高校生のみなさんに何より大事にしてもらいたいのは、「自分には何が必要か」を考えることです。部活動だと全員で同じ練習メニューをやることが多いですが、身体能力も得意不得意も人それぞれ。その練習が本当に自分に合っているかはわかりません。とはいえ一人だけ別のことをするわけにもいかないので、部活動以外の自分の時間をどれだけうまく使えるかがポイントです。苦手なことや強化したいことをみっちり自主練習しましょう。今は動画サイトにスポーツ選手の練習動画がたくさんアップされているので、活用しない手はありません。ほかにも、ケガを防ぐためにお風呂上がりにストレッチをする、疲れやすいから早めに寝て休む、筋肉が付きにくいから食べるものを工夫するなど、個人でできることはたくさんあります。身体のケアまで気を遣れば、きっとよい結果につながっていくはずです。

萱 和磨選手からみんなへメッセージ

夢に縛られる必要はない。心から楽しいと思えることに挑戦しよう

萱 和磨選手写真
 「楽しい」という気持ちだけでスポーツや遊びに熱中し、夢を追いかけられる小中学生とはちがって、高校生はこの先の人生を見据えた決断を迫られる時期だと思います。スポーツを続けるか、勉強にシフトするか、はたまた別のことに挑戦するか……。その後の人生を大きく左右するかもしれない選択に、悩む人も多いはずです。ただこれは、高校生のうちならまだ何にでもなれるということでもあります。未来の可能性を広げるためにも、高校生のみなさんには「夢を追うこと」に縛られる必要はなく、「自信をもって楽しいと思えること」に進路を変更してもよいと伝えたいです。自分には合わない、つらいと感じる部活動を絶対に3年間続ける必要はないと思います。怖がらず、ぜひ新しいことに挑戦してみてください。
 もちろん夢を追い続けるのも素晴らしいことです。僕はずっと体操が楽しくて、今でもオリンピックで金メダルを獲るという夢を追えていて、本当にありがたいと感じています。練習のしすぎでケガをするといった失敗もしましたが、どれも今の自分につながる大事な経験となっています。なのでみなさんも、夢を追う途中で挫折や失敗をしても、人生のよい経験として次に活かしてほしいです。
 僕は今、体操競技の魅力をもっと広めていきたいと考えています。体操の演技はわずか1分ほどですが、その1分のために僕たちは毎日そして何年もかけて、試行錯誤しながら練習をしています。何を考え、どんな想いで練習しているのかを積極的に伝えていくことで、試合で技が成功した時の選手の達成感や失敗した時の悔しさを見ている方にも感じてもらい、「体操って面白い」と思ってもらえたらうれしいです。

※掲載内容は2023年3月の取材時のものです。

村上 茉愛さん
村上 茉愛さん(元体操選手)
自分の気持ちに素直になって、果敢に挑戦してほしい
谷川 航選手
谷川 航選手(体操選手)
目標を達成するためには自分に何が必要かを考え抜く
北園 丈琉選手
北園 丈琉選手(体操選手)
どのような状況でも、目標を持ち続けてほしい
田中 佑典選手
田中 佑典選手(体操選手 リオデジャネイロオリンピック体操競技団体総合金メダリスト)
応援したいと思われる人になってほしい
加藤 凌平選手
加藤 凌平選手(体操選手 リオデジャネイロオリンピック団体総合金メダリスト)
何かをやり通した先には、きっと素晴らしい未来があるはず
山室 光史選手
山室 光史選手(体操選手 ロンドンオリンピック団体総合銀メダリスト)
努力が光るときは、きっと来る
沖口 誠選手
沖口 誠選手(体操選手)
スポーツを通して、仲間との絆が強くなった
冨田 洋之さん
冨田 洋之さん(元体操競技選手)
継続することの大切さを知って欲しい
鹿島 丈博さん

2010年6月

鹿島 丈博さん(元体操選手)
失敗を恐れるな!それが成長への過程だと思え!
米田 功さん
米田 功さん(体操 アテネオリンピック金メダリスト)
打ち込むことの中に楽しさを見つけてください
中瀬 卓也選手
中瀬 卓也選手(体操 北京オリンピック銀メダリスト)
本当に叶えたい夢を持って、諦めずに続けることが大事
池谷 直樹さん
池谷 直樹さん(元体操選手 スポーツタレント)
一度しかない人生を、思いっきり楽しんでほしい
塚原 直也選手
塚原 直也選手(体操選手 アテネオリンピック 金メダリスト)
楽しんで好きになることが一番大事

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株式会社JSコーポレーション 代表取締役社長 米田英一